「平常心のレッスン」

 
義母が来週から入院することになりました。
特に今のところ症状も出ておらず日常生活に困ることもないのですが、高血圧と頸動脈狭窄でカテーテルによるステント留置をほどこすことになるようです。
この治療は術後に合併症が出てくる可能性もあるため、少し不安を抱えての入院となります。

旦那は3人兄弟なのですが、“長男の嫁、子どもがいないし定職もないから動きやすい”ということでか、なんとなく私がキーマンとなって病院と関わりをもつ立場になっています。
ま、今年は占い的にも変化が起きやすく、人間関係や社会面はなかなか自分の思うようにはいきにくいだろうなあと覚悟はしていましたし、無理のない範囲でやれることができればと思ってはいますが。
だんだんこれから、こういう親の健康問題が出てくるわけだもんなあ・・・。

さて、そんな先行き不安定な気分で目についたのがこの本。

  

「平常心のレッスン」
  小池龍之介著 朝日新聞出版



この本の中で一番強く印象に残ったのは、第3章の喜怒哀楽によって神経伝達物質が条件付きで放出されるといった内容です。
快(喜)といった自分の生存にとって好ましいことにはドーパミンが脳内に放出され、不快(怒・哀)といった自分の生存に好ましくない状況下ではノルアドレナリンが放出されるのだそうです。
 
「怒(哀)」については、心理的な不安や恐怖や失敗感を抱いた時にはノルアドレナリンが放出されるようになり、それと同じような状況に立たされたり似たような情報を見たり聞いたりしただけで、同じ神経状況が自動的に再現され回路を活性化させてしまい、条件反射的にノルアドレナリンが分泌されてしまうのだそうです。
 
多分、不安神経症などはこのように条件反射的にノルアドレナリンによる神経回路が活性化されてしまうことによって起こっていくのかなと思います。

筆者は、『怒るという業を積むと、必ずその報いを受ける(負のフィードバックがある)』ということで、怒っている時(このノルアドレナリン回路が活性化されている時)には心を冷静にモニタリングして「神経システムによってまた不安を感じさせられているんだな」などと俯瞰的に認識して受け入れることが大切であると説いています。
 
また「快(喜)」については、仕事がうまくいったり褒められたりなど快の感情を感じるとドーパミンが放出されるのですが、この快楽に味を占めて反復したいという欲望も生み出し、神経レベルではもっともっとドーパミンを多量に求めるような神経回路が活性化してしまうのだそうです。

しかしこの快楽というものには必ず「慣れ」が生じてくるため、さらなる満足を求めて「もっともっと」とドーパミン回路は暴走していき、「足りない・寂しい・苦しい」といった“不足”による不快にも結びつくことになりうると言っています。

多分、依存症などはこのドーパミンによる神経回路が活性化されてしまうことによって起こるということでしょうね。
このドーパミン回路についても、やはり俯瞰的に状況を認識して受け入れること、そして気軽に手に入れられる便利さやショートカットなコミュニケーションから距離をおいた環境に身を置くことで、平常心で穏やかに過ごせる時間は増えていくと説いています。
 
そしてこれらの神経回路の暴走を抑えるのに、「楽」の回路を強化させることが平常心の重要なポイントであると説いています。

「楽」とは「あれこれとこだわらないこと」であり、快・不快の命令に対してすぐに回避行動をとらずに「まあいいかな」と受け入れていると、脳内には心の安らぎや落ち着きを司るセロトニンが分泌されるのだそうです。

「今、この瞬間」の状況に心身をゆだねることで過去の記憶から自由になっていく、ということで、何か単純な作業に没頭するとか、プロセスをゆっくりと楽しむとか、瞑想するとか呼吸法を行うとか・・・が効果的だそうですが。

結局こういうメンタル本は最終的には呼吸法にたどり着くような気がしますが、やはり自律神経を整えるうえで自分で意識して行うことのできる呼吸法は大切ですね。

  
自分の心身を冷静に落ち着かせるためには、こういった神経回路のはたらきを理解しておいて客観的に自分に起こっている状況を見つめるのは、とても役に立つことだろうなと思います。

ただ、世の中を渡り歩いていくためには、「もっともっと」と上を目指す執着心も必要な場合は多々あるだろうし、感覚や繊細さを問われるような場合ではノルアドレナリンによる神経回路が必要とされることもあるんじゃないのかな。

たまたまこの本を読んだ後に、NHKの「SWICHインタビュー 達人達」という番組で、世界的なピアニストの上原ひろみさんと“岳”などの作品を手掛けた漫画家の石塚真一さんとの対談番組を観たのです。
この対談の中では、「もっともっと」自分はできるはず、次は今よりもっと・・・と、常に上を向いて精進されているお二方の話を聴いて、さすがすごいよなあ〜と感心したのです。

そう考えると、芸術家やクリエイターといった人たちは、依存症と紙一重!?といえるのかもしれないな・・・と思ったりして。
依存や執着も原動力として良い方向で伸ばすことができれば、素晴らしい才能につながる人もいるわけで。
 
まあ結局は、「苦しまない・病まない」ように自分の現状をどこかで俯瞰的に見つめるように心がけ、「楽」のセロトニンの回路を活性化させながら感情をコントロールできればいいってことですよね〜。

たまたま選んだ本でしたが、この本には「生老病死に平常心で臨む」という章もあり、なんとなく今の自分の気分にマッチしたのもあって、なるほど〜と入りやすかったです。