『天と地の守り人』

 

天と地の守り人
 上橋菜穂子 著 二木真希子 絵   
 偕成社
  


70代の母と叔母の間で、ちょっと前にブーム?となっていたのが、この『精霊の守り人』シリーズの本。
BSドラマとしてテレビ放映されたのがきっかけのようです。

ハリーポッターより面白いから!」と勧められたので、図書館で探して読んでみました。
壮大な世界観!スペクタルな大河小説…見事にはまりましたね〜!
著者が紡ぎ出す、物語の構成力・文章力に引き込まれていく本の世界は何より素晴らしく、一気に読み上げました。

児童文学ではありますが、高齢の母たちが夢中になったことからも、あらゆる世代の人たちを魅了する物語だと思います。
この本は、もう10年近く前に出ていたんですね。
知らなかった…。
 
 
守り人シリーズ最終章である『天と地の守り人(三部構成)』では、ナユグ(精霊界)とサグ(現実界)が交差する世界観、戦争と天災が特化して描かれています。
何となく、今の各国で起きている状況にも重なる気がして考えさせられました。

戦争のために農村から駆り出された草兵としてのタンダの視点や、立ち向かう術なく巨石に押しつぶされ逃げ場なく敵に切られていく描写は、自分がやられていくようなリアルさで本当に辛い。

田畑を荒らされ、昔から住み慣れた町を焼きだされ、国外へ逃れる国民たちの辛さ。
切り裂かれ、焼けただれ、潰されて折り重なった無残な屍を踏みしめ、己れの苦悩と戦いながら敵国の兵士に立ち向かい刃を手向けるチャグムの視点は国を背負う者の辛さ。 
死体が残る戦場や、重症を負った兵士たちが運ばれた小屋には腐臭がたちこめ吐き気を誘い、バルサはタンダの腕を切り落として一命をつなぎとめる…愛する者を失うことへの辛さ。

戦争では失うものしかない。
凄惨さを伝える描写を児童文学だからと言ってそぎ落とさなかったことに、戦争への著者の思いを感じることができます。
 
 
ナユグとサグの狭間に生まれたチャグムは、天ノ神が統べる国の帝として、天をいく者ではなく、地をいく者として歩んで行く決心をします。

「天の神や帝に荷をあずけず、
だれもが、それぞれ、おのれの背に、身の丈にあった荷を背負い、
おのれの判断に責任をもって生きていく国にしたい。
たったひとりの声のみが高らかにひびく国ではなく、
多くのことなる声がひびき、混乱し、まよいながらも、
ゆっくりといくべき道をみいだしていく国にしたい。
・・・
おのれがくだす命令の責任を神の影にかくすようなことはすまい。
民が知ることができるように 自分たちをおさめている者が、
どんな人間であるのかを。
自分たちが、どんなふうに、荷をあずけているのかを。」 
・・・

貧しい民の暮らしや国の政治の裏に渦巻く陰謀などの“地の世界”を、まさに地を這うように自力で命をつなげてきたバルサの生き様に学んだ、チャグムの成長ストーリーの結末にふさわしい。
国を動かす立場の方たちにも、ぜひ読んでいただきたい物語です。
 

「生成変転の相」という言葉が出てきます。
ナユグでもここでも、天と地は、こうして、ただありつづけ、うごきつづける
 
シリーズ初めには11歳だったチャグムは18歳に成長し、絶大な強さをもつバルサも30代後半(アラフォー)となって、チャグムに支えられる場面も増えました。
成長と共に衰退がある、いろんな立場の世代交代もふまえて、人の諸行無常の時の流れをきちんと描いています。
すべてがただそこにあり、常ではなく、動いているということを、読みながら感情として「あぁ。うん」と感じることのできた作品でした。
 
今年の5月、この本の挿絵を手がけられた二木真希子さんが58歳で亡くなられたということでした。
二木さんの描くバルサが好きでした。
ご冥福をお祈りいたします。


そういえばこの本を読んで、“政治の状態が悪いと災害が起きる”と、以前何かの本で読んだことを思い出しました。
これからの地球、滅んでいくもの、生まれ出でるもの、どう動いていくのか…。

地球が流転しながらも、美しく凜としてここにあり続けていくこと。
心から願っています。